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第122回定期演奏会、その5

 第122回定期演奏会の最後はブラームスです。彼の天才は幼少の頃から秀でており、10歳にはすでにピアニストとして生計を立てるほどでした。作曲でも多くの作品を書き上げたと言われていますが、自己批判的傾向の強かったために若書きの習作のほとんどは廃棄され、19歳以前の作品は記録があるのみで現存はしていないようです。今日私達が彼の作品1としている『ピアノソナタ第1番』でさえも、本当は数多くの習作の上に生み出されたものだということは確認しておくべきでしょう。
『ピアノソナタ第3番 ヘ短調 Op.5』は彼がまだ20歳の時に生まれた、青年らしい情熱の漲る作品です。3作目のピアノソナタということですが、それ以前の二作はいずれも彼が19~20歳の一年の間に書かれたものであり、またこの第3番を最後にこの分野には着手することはなかったので、ブラームスがピアノソナタと向き合った時間は若年のわずか一年ほどだったということになります。この一年間に彼はピアノソナタという分野に嫌気が差したのか諦めてしまったのか、はたまたこの分野ではすでに自分なりの終着点に到達したと考えたのか。本作を見てみると、全曲を貫徹している燃え盛る情念や瑞々しい抒情美の裏で、構成の上での不均衡や処理が稚拙な点も多々見受けられ、やはり若書きという印象を拭えない部分もあります。しかしながら、自身のピアノソナタの集大成として見るならば、前二作より大規模で野心的な構成を持ち、また音楽的にもよりどっしりと巨大なものを内包するこの第3番を傑作として位置付けることは出来るでしょう。
 ブラームスがベートーヴェンやモーツァルトといったドイツ古典派、さらにはバッハといったバロック期に至るまでのドイツ音楽を愛し、範にしていたことはよく知られています。そして自らもその系譜に連なる作曲家としての自負があったと思います。ベートーヴェンを意識しすぎたせいで『交響曲第1番』の完成に20年の歳月を要したという話は有名ですが、特にピアノソナタにおいてもベートーヴェンの残した32の怪物が立ちはだかっているわけで、それらに追従する自らのピアノソナタを作るということの重みは相当なものだったはずです。自身がひどく優秀なピアニストだったということもあって、分かり過ぎるくらいにピアノことがよく分かるブラームスにとっては、却って困難な仕事になったのではと想像出来ます。全5楽章のアーチ構造という凝った構成も、至る所に顔を出す動機の展開も、偉大な先達にある意味で対抗するための手段。その一方で、第3楽章の舞曲調の音楽には後のハンガリー舞曲やワルツ集の萌芽も感じられ、いかにもブラームスらしくなっています。
 「ベートーヴェンの後に一体何が残っているというのだろう?」とはシューベルトの言でしたが、その問いに対して20歳の青年が敢然と示した一つの"答え"を聴いて頂きたいと思います。

《私の好きな録音⑬》
 ベートーヴェンのピアノソナタで名演を生み出すというのは並大抵のことではないでしょう。単にあらゆるピアニストが取り組むだけでなく、音楽それ自体の持つ奥行きを見通すだけの「視力」が演奏者に求められるからです。昨今の録音大氾濫時代にあっては尚のこと困難極まりない、厄介な問題です。しかし時代が流れても、依然としてベートーヴェンがピアニストを量るのに最良であるということには変わりありません。私も、誰か気になるピアニストに出会った時は、出来ればその人のベートーヴェンを聴くようにしているし、自然とベートーヴェンが聴きたいと思ってしまいます。
 そうして出会った録音には忘れ得ぬものも少なからずあります。イギリスのピアニストであったソロモンが残したベートーヴェンの録音は、奇を衒わぬ佇まいの中に強靭な意志を落とし込んだ、得難い感覚に裏打ちされたものばかりです。ハンマークラヴィーアは昔から名高い演奏でしたが、第32番もこれ以上何を求めればいいのか分からないくらいの芸術の顕現です。吉田秀和さんも仰っていた通り、彼がまさにベートーヴェン弾きだったということがよく理解できます。
 フランスのイヴ・ナットもベートーヴェンにおいては至高の体現者と言えましょう。彼のベートーヴェンには土臭さというものがなく、聴いていると、純化され凝縮された音の滴に触れるような心持ちです。しかしながら、どちらかと言えばこの人は個性的という分類に当てはまる人で、屈強かつ潔い表現は時としてハッとさせるような風景を描き出し、大見得を切って見せることもしばしばです。彼の創作主題による32の変奏曲はこの曲の最上の演奏の一つだと思います。ソロモンでは叶いませんでしたが、ナットによってピアノソナタ全集が完成されたのは何と喜ばしいことでしょうか!彼はまたシューマンでも他の追随を許さぬ名演を残していてくれていますから、そちらもぜひ聴いてもらいたいです。『交響的練習曲』や『幻想曲 ハ長調』などなど。
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ヮ(゚д゚)ォ!渋いですね!

v-22こんにちは(^o^)/v-22

締め=“Brahms”---。
中々渋いですね(´∀`*)e-51

Brahmsは,一昨年N響で聞いたのですが,
個人的に【室内楽】の方が好みですねi-4i-80自宅にもLP割とあるので,じっくり鑑賞したいです...
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